静岡県立朝霧野外活動センター
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陸奥の旅



 その昔、西行が「十月十二日、平泉にまかり着きたりけるに、雪降り、嵐はげしく、殊の外にあれたりけり。いつしか衣河見まほしくてまかりむかひて見けり」と書いた衣川をこの8月に初めて見ることが出来た。
西行が平泉に着き、衣川の流れを見たのは雪の降りしきる陰暦十月のことであり、私の平泉行きは真夏のことであったけれど。感激は一入であった。
中尊寺へのかなり長い登り坂の参道を歩いていくと右手下方に、カーブした衣川(北上川)の流れが見えてくる。真夏の日差しを集めて光っている衣川を認めた時は、自分が西行になったような心地がして、私も「いつしか衣川見まくほしくて」ここまでやって来たような気持ちになっていた。 
 西行は衣川の岸辺まで歩を運んで、「とりわきて心も凍みて冴えぞわたる 衣河見に来たる今日しも」と詠んだ訳だが、高みから川を見下ろしている私の額からは汗が噴き出ていた。
 このときの西行の旅は最晩年のことであり、「つねよりも心ぼそくぞ思ほゆる…」という歌が残されているが、相当の高齢での徒歩旅行は「いつもよりは心ぼそく」と言う程度のものでは決してなかったと思われた。まして、京都から平泉までの道のりを、自らの足だけを頼りに歩いてきたと言うのだから。
 何事につけても、昔の人は「偉い」とか「凄い」とかの一言で片づけることに慣れてしまっている私に「凄い」ということの意味の深さをしみじみと考えさせられた陸奥の旅であった。

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